診療報酬とは、保険医療サービスに対して支払われる報酬であり、医療機関の収益源でもあります。
診療報酬は医療機関の運営にも大きく影響するため、しっかり診療報酬を確保しておきましょう。
本記事では、診療報酬の仕組みや請求の流れ、令和8年度診療報酬改定のポイントなどを解説します。制度の基本から実務上のポイントまで理解し、適切な請求業務と査定・返戻リスクの低減につなげましょう。
診療報酬とは
診療報酬とは、日本の公的医療保険制度に基づき、保険医療機関や保険薬局が提供する保険医療サービスに対して支払われる報酬であり、医療機関の主な収入源です。
診療報酬は、医療保険制度を通じて患者さんが支払う自己負担分と、保険者が支払う公的負担分から成り立っています。公的医療保険制度があることで、患者さんは比較的軽い負担で医療サービスを受けられます。
診療報酬が医療機関へ支払われる仕組み
医療機関は提供した医療サービスに基づいて診療報酬を請求し、審査を経てその支払いを受けます。
まず、医療機関は患者へ提供したサービスを記録し、診療内容をもとに診療報酬請求書(レセプト)を作成します。
次に、レセプトを審査支払機関へ提出し、算定内容や請求内容の審査を受けた後、審査を通過したレセプトが保険者へ送付される仕組みです。
その後、医療費は審査支払機関を経由して、医療サービスを提供した医療機関へ診療報酬として支払われます。
診療報酬の支払い方式
| 出来高払い制 | 医療行為に応じて診療報酬が決まる仕組み |
|---|---|
| 包括払い制 | 国が定める診療内容に基づき定額の報酬が支払われる仕組み |
診療報酬の支払い方式は、「出来高払い制」と「包括払い制」の2種類です。出来高払い制では、医療行為・サービスごとに料金が設定されており、患者におこなった医療行為・サービスに基づいて報酬が支払われます。
診療報酬の支払いは基本的に出来高払い制であるものの、一部に包括払い制を組み合わせている場合があります。
診療報酬の点数と加算
医療機関の経営を安定させるには、診療報酬の点数や加算の正しい理解が欠かせません。
診療報酬の点数と加算についてしっかり理解することは、経営状況を改善するうえでとても重要です。ここでは、診療報酬の点数と加算について詳しく解説します。
診療報酬点数表とは
診療報酬点数表は、医療機関が提供する各種医療行為に対する報酬を点数で示した一覧表です。診療報酬は「1点=10円」で計算され、点数表を基に医療機関側で診療報酬を請求します。
なお、点数は医療行為の内容や必要な技術、時間、資源に基づき、厚生労働大臣が細かく設定しています。点数は全国一律で、患者に交付する領収書や診療明細書にも記載される仕組みです。
診療報酬点数の分類と種類
| 基本診療料 | 点数 | 特掲診療料 | 点数 |
|---|---|---|---|
| 初診料 | 291点 | 在宅患者診療・指導料 往診料 | 720点 |
| 再診料 | 76点 | 検査 尿中一般物質定性半定量検査 | 26点 |
| 入院基本料 一般病棟入院基本料(1日につき) 急性期一般入院料1 | 1,874点 | エックス線診断料 単純撮影の場合(胸部) | 85点 |
| 救命救急入院料1(3日以内の期間・1日につき) | 12,379点 | 調剤料 入院中の患者以外の患者に対して投薬をおこなった場合 イ 内服薬、浸煎薬及び屯服薬(1回の処方に係る調剤につき) | 11点 |
診療報酬点数は、医療行為の種類や内容に応じて分類されています。診療報酬を大きく分けると、初診料や再診料などの「基本診療料」と、医学管理や在宅医療などの「特掲診療料」の2種類です。
さらに、各分類内でも細かく種類が分けられています。たとえば、外来診療には初診料や再診料、入院診療には入院基本料や特定入院料などが設定されています。
診療報酬の加算について
診療報酬の加算とは、医療機関が特定の条件を満たした場合に、基本点数へ報酬が上乗せされる仕組みです。夜間・休日の診療や、特定の技術・設備を用いた診療などでは、加算の対象となる場合があります。
代表的な加算として、下記の項目が挙げられます。
・時間外加算(休日・深夜など含む)
・地域包括診療加算(診療所のみ対象)
など
代表的な入院基本料等加算には、救急医療管理加算、医療安全対策加算、感染対策向上加算、診療録管理体制加算、医師事務作業補助体制加算などがあります。
診療報酬請求の流れ
2. 診療情報をレセプトコンピューターに入力する
3. 医療事務員が請求内容をチェックする
4. 医師によるダブルチェックをする
5. 翌月10日までに審査支払機関に提出する
現在、診療報酬の請求は基本的に電子レセプトでおこないます。診療情報を電子レセプト請求の専用機器「レセプトコンピューター」に入力すると自動で点数を計算することが可能です。その後、入力内容を確認して誤りがなければ医師によるダブルチェックをおこない、診療をおこなった月の翌月10日までにレセプトを審査支払機関へ提出します。
また、診療報酬請求は全て保険者に請求するのではなく、患者の自己負担が発生する点も覚えておきましょう。
①電子レセプト請求(システム環境)を準備する
電子レセプト請求をおこなう際は、レセプトコンピューター(レセコン)や電子カルテなど、診療情報を電子データで記録・管理できるシステム環境が必要です。
多くの医療機関ではオンライン請求へ対応しているため、システムを適切に運用し、オンライン資格確認や保険情報が正しく反映される環境を維持しましょう。オンライン請求の導入や運用方法について詳しく知りたい場合は、下記コラムも参考にしてください。

また、レセコンや電子カルテのチェック機能・アラート機能を活用すると、入力漏れや算定誤りの早期発見が可能です。
診療報酬は原則2年ごとに改定されるため、定期的に最新の算定ルールを確認し、必要に応じてマスタ更新やシステムのアップデートをおこないましょう。
参考:社会保険診療報酬支払基金「診療報酬の審査・支払業務の流れ」
②診療情報をレセプトコンピューターに入力する
レセプト作成の基礎は、日々の診療情報をレセコンへ正確に入力する作業です。
外来は来院ごと、入院は日々または月ごとに入力し、1か月分の診療データを蓄積してレセプトを作成します。入力項目には、患者の保険情報や傷病名、実施した処置・検査、処方薬などが含まれ、診療報酬点数の算定根拠となるため、正確な入力が欠かせません。
マイナ保険証によるオンライン資格確認やレセコン・電子カルテの算定支援機能を活用すれば、負担やミスを軽減できるほか、誤りの早期発見につながります。
入力方法や確認手順のマニュアル化や、運用ルールの統一も、属人化を防ぎながら入力精度を維持するうえで重要です。
③医療事務員が請求内容をチェックする
診療情報を入力した後は、傷病名・診療行為・処方薬の整合性や、診療内容に適した病名が付いているか、算定回数の上限を超えていないかなどを1件ずつ確認します。
正確なレセプト点検には、傷病名や診療内容の適切な記録が前提であり、請求の妥当性を判断できるよう、関係職種による正確な入力の徹底が重要です。
また、公費負担医療では通常の保険診療と異なる請求ルールが適用されるため、対象者を正しく把握し、制度に沿って処理する必要があります。診療報酬は原則2年ごとに改定されるため、診療内容や診療報酬点数表への深い理解も欠かせません。
さらに、今後の医療事務員には、単なる入力・点検業務だけでなく、AIやシステムを使いこなし、複雑な加算を適正に算定する役割が求められます。査定・返戻を防ぎながら、医療機関の収益管理や病院DXを支えるキーパーソンとしての重要性は、さらに高まると考えられます。
ソラストでは「診療報酬適正化診断」も提供していますので、算定状況や運用体制の見直しを検討している場合は、あわせて参考にしてください。
④医師によるダブルチェックをする
医療事務員による点検後は、傷病名と診療行為・処方薬の整合性を事務的な判断だけでは確認できない項目について、医師が医学的な観点から最終チェックをおこないます。
レセプトの内容によっては、査定や返戻を避けるために添付資料や症状詳記が必要になるケースもあります。該当する請求がある場合は、この段階で医師へ書類の作成を依頼しておきましょう。確認作業を円滑に進めるには、医療事務員が疑義のある箇所を事前に整理し、該当部分をマーキングしておくと効果的です。
医師が確認すべき点を把握しやすくなり、診療業務への負担を抑えながらダブルチェックを進められます。医師からの回答が遅れると、翌月10日の提出期限に間に合わない可能性があります。
確認依頼から回答までの流れと院内締め切りを定め、医学的な不整合を提出前に発見できる体制を構築すると、査定・返戻による収益機会の損失を防ぎやすくなります。
⑤翌月10日までに審査支払機関に提出する
作成・点検したレセプトデータは、診療をおこなった月の翌月10日までに、オンラインで審査支払機関へ提出します。
期限間際にシステムエラーが発生すると対応が難しくなるため、余裕を持って提出しましょう。
提出したレセプトは、記載事項や請求点数の事務点検と保険診療ルールに基づく審査がおこなわれ、請求内容が適切でない場合は診療報酬が減額されます。一方、記載内容の不足などで診療行為の適否を判断できない場合は「返戻」となり、医療機関へ差し戻され、再提出をおこないます。
査定に納得できない場合は、減額理由や診療内容を確認したうえで、必要に応じて再審査請求を検討しましょう。
審査を通過したレセプトは保険者へ送られ、診療月の翌々月10日までに請求処理がおこなわれた後、原則として21日までに医療機関の指定口座へ診療報酬が振り込まれます。査定や返戻が増えると、入金の遅れや修正の手間も発生するため、点検精度を高める意識が、安定したキャッシュフローにつながります。
査定や返戻の削減に向けて請求精度を見直したい場合は、下記もご活用ください。
令和8年度診療報酬改定のポイント
令和8年度(2026年度)診療報酬改定は、2026年2月13日に答申が公表され、薬価改定は4月1日、診療報酬本体は6月1日に施行されました。ここでは、診療報酬改定の仕組みと令和8年度改定の概要、医療機関や患者へ与える影響を解説します。
参考:厚生労働省「厚生労働省関係の主な制度変更(令和8年4月)について」
診療報酬改定とは
診療報酬改定とは、医療費の適正化と医療サービスの質向上を目的に、医療機関が提供する診療・治療などの点数や算定要件を原則2年に1度見直す仕組みです。
改定の対象は、医科診療報酬・歯科診療報酬・調剤報酬の3分野であり、社会情勢や政策課題に応じて、点数や施設基準、算定要件が見直されます。また、改定にあたっては厚生労働大臣の諮問を受けた中医協の審議・答申を経て実施され、改定率は政府、個別の点数配分は中医協が決定します。
令和8年度診療報酬改定の概要
令和8年度改定の背景には、物価や賃金が上昇する一方、医療サービスは公定価格であるため、医療機関がコスト増を価格へ柔軟に転嫁できない構造的な問題があります。
令和8年度改定では、課題への対応として診療報酬本体の改定率がプラス3.09%となり、近年では大幅な引き上げとなりました。増額分は、ベースアップ評価料の拡充による賃上げ対応、物価対応料の新設による物価高騰対策、医療提供体制の整備などへ配分されています。
ただし、改定率が引き上げられても、すべての医療機関が自動的に増収できるわけではありません。ベースアップ評価料を算定するには、施設基準を満たしたうえで地方厚生局へ届出をおこなう必要があります。また、改定は下記の4つの視点で構成されています。
・2040年頃を見据えた医療提供体制の構築
・医療DXによる質の高い医療の実現
・医療保険制度の安定・持続に向けた効率化
配分は施設類型によって異なり、物価対応分は病院へ手厚く配分される一方、医科診療所・歯科・薬局への配分は限定的です。自院の施設区分や算定状況をもとに、改定が収益へ与える影響を確認しておきましょう。
令和8年度診療報酬改定の影響
令和8年度改定では、医療機関の収益増につながる点数の引き上げがおこなわれました。
たとえば、再診料は75点から76点へ、急性期一般入院料1は1,688点から1,874点へ引き上げられています。一方で、新たな算定要件や施設基準への対応に伴い、書類作成や院内体制の整備、システム設定などの業務負担が増加している点は課題のひとつです。
また、一般所得者の入院時食費は1食510円から550円へ、65歳以上の療養病床における光熱水費は1日370円から430円へ引き上げられるなど、患者の自己負担にも影響しています。
さらに、電子的診療情報連携体制整備加算が新設される一方、医療DX推進体制整備加算などは見直されています。これまで算定していた加算の算定要件が変わっていないか、新たに算定できる項目がないかを確認しましょう。
改定率がプラスでも、加算や管理料を算定できなければ本来得られる診療報酬を逃す可能性があるため、収支シミュレーションによる体制・システムの見直しは必須です。なお、ソラストでは、診療報酬改定や医療DX、収益改善をテーマとした病院・クリニック向けセミナーを定期的に開催しています。
この記事の著者
株式会社ソラストは、1965年に医療事務の教育機関として創業した、
医療事務の教育と、医療機関向けの医事業務受託・人材サービスを手がける会社です。
(グループ社員約30,000人)
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